第三章 こんなの素人目にも分かる……

尿検査と血液検査が終わり、次は……遂に、遂にきました。『レントゲン』です。ここで、止めが刺されるのです僕の健康な人生にピリオドを打たれる。裁判官が
「証拠はあるのですか?」
と言ったらきっと検察側は
「甲一号証として提出します」
とかなんとか言ってこのレントゲンを提出するでしょう。いや、何が言いたいかというと、この検査を終えることによって僕が肺ガンであるという動かぬ証拠が出来上がるんですよ?今日最終的に『告知』されるとして、その瞬間、僕はおそらく半端無く取り乱しますよ。わかってはいるものの、そう告知されれば条件反射のように
「嘘だ!そんなの嘘だ!騙されないぞ!!」
ってわめき散らしますきっと。そしたら医師はこのレントゲン写真を取り出し、
「これが動かぬ証拠ですよ、あきらめなさい」
っていうその完璧な証拠をこれから撮るんですよ?心拍数は跳ね上がります。僕はこれ以上ないほどビクビクしながらレントゲン室に入室しました。
レントゲン技師の方は、ものすごく歯切れの良い方でした。どこかのアナウンサーの方?僕の動揺を知ってか知らずか、僕になにも考える暇を与えないほどのテンポ良い指示の連発で、あっという間に3枚ほど撮影しました。そのあまりのテンポの良さに、レントゲン撮影の間だけは、不安や動揺を忘れていたように思います。このレントゲン技師さんに当たって良かったなと思いました。
この病院は(他の病院もそうなの?)、各検査結果を患者が自分で、例えば僕なら呼吸器内科の診察受付まで持っていくシステムなのです。なので、写真が出来上がるまで待ちます。僕の隣に、同じように待っている子供がいました。どうやら腕を骨折したようです。正直うらやましかった。僕も骨折ならこんなに不安になることはないのに。なんせ骨折で死ぬことは無いからね。レントゲンとかむしろ楽しんで興味津々で撮るのに。で、自分の写真とかこっそり見て、
「あー確かにここポッキリいってるなー」
とか言うのに。

!!

……写真が出来上がりました。
「はい、じゃあこれを持ったまま、次は心電図検査に行ってくださいねー」
レントゲン写真の入れられた大きな封筒を渡されます。封筒の口は……開いています。
これは……勝手に見てもいいものなんでしょうか?ていうか僕みたいな患者の気持ちを考えるならば封筒の口は閉めとくべきじゃないのか?こんなの、見てくださいって言っているようなもんだよ?医者じゃなきゃ専門的なことは分からないとでも思っているんでしょうね。それは確かにその通りですよ。でも、僕だって本やテレビ等で、正常な肺の大体の形とか、白くボヤッと陰になってたら確実にヤバイとかそれぐらいは分かってしまいますよ?なんだこの緊張感。やばい、見たくないのに、そんなの知りたくないのに、手が勝手に動く、なんだこれ?
まあ見ても多分良く分からないだろう。それにもしかして見て、明らかに正常っぽかったらひとつの希望にもなるし。
僕は見ちゃいました。正面から撮ったレントゲンを。

……。

そこには、なんと、明らかに。
明らかに、なんか白くて丸い『ラムネ』みたいなものが左肺の中央に写っているじゃありませんか!
明らかにこれへあ……!!!!!!1111
突如跳ね上がる心拍数!!心臓が爆発したかのように脈打つ!!目の前がグニャッと歪んで、ああああああああああああああ!!も駄目だもう駄目だよこれは!!これは素人目にも分かるよいくらなんでもこれは分かっちゃうよこれは!!うわああああぁぁぁぁぁぁぁ……マジでぇぇぇ……。これ、……マジでぇぇぇぇ……。
うわー決定じゃんうわどうしようどうしよどうしよどうしやばいってまじやばいって痛って!!
もう、完全に平静を失いました。未だかつて経験したことのない心拍です。ドッグドッグドッグドッグドッグ犬!!バックバックバックバッグバック後!!
わかってはいたものの……やはり物凄いショックで超混乱しました。絶望と落胆と肺ガンと痛み、なんだか、唐突にものすごくそのレントゲンのラムネの部分が本当に痛くなってきたんです!!マジで!!
廊下を小走りで通行してしまいます。うわ、うわって思いながらも、でもとにかく心電図検査に行かなくてはと思いたち……え?ちょまて。
こんな人生最大の心拍数で心電図撮るの?
でも、いくら落ち着こうとしても全然落ち着けません。当然です。しかたないからそのまま心電図撮りました。
「楽にしてくださいねー」
楽に出来るわけないですよ。深呼吸しようと何しようと心拍数すっげ早いです。絶対またいらない病気の疑いかかるよ絶対。もー最悪だよ。一応言い訳だけでもしておこう。
「あの……すごく緊張してドキドキしてたんですけど」
医師「え?うーん、ちょっと早いけど別に大丈夫だよ」
僕は
「絶対に嘘だ!」
と思いました。