第一章 「C」マークを暗記する中学生

前日はほとんど眠れませんでした。何度も病院行くのやめようと思いました。でも僕ももう、この、生きてるのか死んでるのか分からないような絶望の毎日に疲れていたことも事実です。自分の『死』と向き合う決意などと格好良く書きましたが、実際は、さっさとケリつけて早くラクになってしまいたいっていう考えが頭をもたげてきただけです。あいかわらず告知を受け止める勇気なんてさらさら持ち合わせちゃおらず、早くラクになりたいっていう『逃げ』の気持ちの、そのなんとなくの勢いでついにその日病院に行くことに決めました。最後まで超情けないです。僕は自分の弱さをかみ締めつつ家を出ました。
気胸経験者の友人が手術の際紹介されたという、呼吸器系に強い(?)大学病院に行くことにしました。いよいよ緊張が高まります。かつてこれほどまでに緊張したことがあっただろうか。この『生殺し』状態が長く続けばそれだけで僕は死んでしまいそうだったので、なるべく早く診察を受けなければと思い、超朝早く出ました。かつてこんなに早起きしたことがあっただろうか。
するとその大学病院、原付で行くと物凄く近くにありまして、ちょっと異常なくらい早く着いてしまいました。入り口入ると、喫煙室で、おそらく骨折だかなんだかで入院してるであろう患者さん達が談笑しながらプッカプッカ煙草吸ってるわけですよ。すんごく腹が立ちました。こいつら肺ガンの入院患者の気持ちを考えないのか!?ていうか俺の気持ちを考えろ!!って。自分勝手なあれですいません。でもこの時はマジでした。だって自分死ぬんだぜ?
一番に初診外来受付に並ぶことができた僕。病院はもちろんすごく混んでいましたがなにせ超早く来たので。
一人で病院に来たことなんて一度も無くて初めて知ったんですが、初診の場合、いきなり呼吸器内科直行じゃなくて、とりあえず最初に初診当番の先生が症状を聞き、診察して
「じゃあ、〜科に行ってください」
というふうに患者を振り分けてくれるんですね。その先生には色々な質問をされます。
「どこが痛いですか?」
「今まで、病気の経験は?」
とか、こんな風に。ちなみに〈〉内は僕の心の声です。
医師「煙草は一日どれくらい吸いますか?」
僕「……一箱くらいですかね(あーマイナス査定か??)いや、ひ……一箱いかないかなぁ18本位かなぁ……?」
医師「では、ご家族で呼吸器系の病気を患った人はいますか?」
僕「えっと……祖父が肺ガンで死にましたね……(ひー!なんかメモってる!!絶対マイナスポイントだよこの回答やべえ!!嘘つきゃよかった!!)……た……多分
医師「多分?」
僕「いや、た……多分、四、五年前くらいですかね、祖父が死んだのは」
つい「多分」とか言っちゃいました。
中学生の頃、視力検査の『C』マーク暗記してる奴いたよね。あの心境です。そこでプラス査定もらっても実際肺ガンなことには変わりないのに。人間って不思議。ていうかもう、こっちも瀬戸際ですからね。極度の緊張でちょっとワケが分からなくなってました。
幾度かの質疑応答の後に医師は言いました。
「う〜ん、多分呼吸器系だとは思うんですけど。(ヒー!やっぱり!ヒーッ!!)とりあえず検査は全部やっておいた方が良いと思うんで。レントゲンの他にも、血液検査と心電図と、あと尿検査もしましょう」
検査が多ければ多いほど、お金もかかるんだろうなーって勝手に思いましたが、別にもう死ぬしどうでもいいや、好きにしてください。
「初診だと結構待ち時間かかっちゃうから、待ってる間に先に検査回っちゃいましょう」
その振り分けてくださった医師の方はとても気さくで良い方でした。